財前くんって同じクラスになるまではずっと怖くて、クールで
女子にはものすごーく冷たい人なのかなって思ってた。
(いや、今もそういうところはあるんだけども)
だけど、テニス部の人たちといるときだけはクラスにいるときの財前くんじゃないなあって思った。
表には出していないけれど、すっごく楽しそうなんだもん。
ずっと見てる私にはわかる(とか言っちゃったりして)
「財前くーん」
「…………」
「(聞いてないな、こりゃ)」
そして1ヶ月前に私からの告白で財前くんと見事付き合うことができた。
お昼はいつも屋上で一緒に食べる約束をしているんだけど、財前くんは
ずっと音楽を大音量で聴きながら、パソコンをいじって食べてる。
(食べるときくらい、いいのに)
(わたしの話を聞いてくれたっていいのに)
こんなときに、本当に財前くんはわたしのことを好きなのかな、とか。
わたしといてつまらないのかな、なんて思ってしまう。
「いいなあー、これ」
お昼を食べ終わったあとは、大抵わたしは雑誌を見る。
今日の雑誌はパフェ特集のやつ。1ページ目からおいしそうなパフェが載っていて、
思わず声に出してしまった。よく見ると、このパフェ屋さん学校の近くにある!
「ねぇ、ざいぜ…(あ、)」
財前くん、ここ一緒に行こうよ。
なんて言おうとしたけれど、やっぱりやめた。
だって財前くんは部活で忙しいし、第一こんなところに行くのは嫌いだからだ。
それに今話をしたって聞いてるわけがない。
(今度一緒にユウと行ってみようかなー)
ずっとそのページに見惚れていたらチャイムが鳴った。
わたしは財前くんの裾をちょいちょいと掴んで、チャイムが鳴ったことを知らせた。
財前くんはパソコンを閉じて、イヤホンをはずしていつものように
さっさと教室を戻ろうとしていたけど、急に立ち止まってわたしの方を向いた。
(どうしたのかな)
「今日、ミーティングだけらしいで一緒に帰れるで」
「本当?久しぶりに一緒に帰れるね!」
やったあああ!今日約2週間ぶりに財前くんと帰れる。
帰りは音楽も聞いてないし、パソコンもしてないから話できるかも。
話題見つけておかないと…。放課後が楽しみ。
★
「」 「あ!財前くんお疲れー!」
校門で待っていたら、ミーティングを終えた財前くんがやってきた。
笑顔でお疲れって言ったら「ミーティングだけでお疲れ言わんやろ」といわれた。
「あれ?そっち違うよ?」
帰ろうと思ったら、一歩先にいる財前くんは帰る道の反対へ歩き出した。
慌てて方向を変えて財前くんについていきながらそう聞くと、彼は
「まだ時間あるやろ?俺寄りたいところあるねん」と言った。
彼の背中を見ながら後ろを歩いていたら、急にぴたりと止まって
わたしは鼻を財前くんの背中にぶつけた。
「いったー!」
「後ろ歩くでアカンのやろ」
「だからって…」
ぶつけた鼻を押さえながら喋っていると、横から「おいしかったねー」という声が聞こえた。
見てみると、同じ中学の先輩らしきカップルがオシャレな店から出て行ったところだった。
あれ?このオシャレな店…どこかで見たことあるような…。
「…あーっ!今日雑誌に載ってた店だ!」
「…行きたかったんやろ」
「うん!でもなんで!?どうして行きたいってわかったの?」
そう聞くと、財前くんは「は?」という顔をした。
そして真ん中に繭を寄せながらこう言った。
「お昼に雑誌見ながらここ行きたいって言ってたやろ」
「…うそ!?聞いてたの!?」
「神田と行くんなら俺と行けや、アホ」
財前くんはそう言ってパフェ屋にスタスタと入っていった。
わたしも慌てて中に入って、窓際の席に座る。
「ねえ、なんで?聞いてたの?」
「うるさいねん。これやろ?」
「あ、うん。じゃなくてええ!人の話聞こう?」
「は勘違いしてるみたいやけど___」
「え?」 「お昼は音楽なんて聞いてへんのやで」
ニヤッと笑った財前くんが一瞬怖かった。
嘘だあ!わたしが話しかけても返事してくれないくせに!
そう言うと彼は「めんどい」と言った。
「昨日はこの向かいにあるアクセサリーショップ見ていいなあとか呟いてたやろ」
「なっ…!///」
窓からみえる向かいのアクセサリーショップを指差して財前くんはまたニヤッと笑った。
ちょっと呟いたこともこの人は全部聞いてたんだ。
恐るべし、財前くん…!流石、能ある鷹は爪を隠す!(あれ、意味違ったっけ)
「しゃーないから、あれ買ったるで」
「え?」
うわあああ、最悪だあああなんてぼそぼそ呟いていたら、
財前くんはアクセサリーショップの方を再び見てそう言った。
わたしももう一度アクセサリーショップを見てみると、外に飾られている
ピンクのハート型のネックレスが目に入った。
あれ、もしかして昨日欲しいとか呟いてたやつだ。
「うっそ!?今日の財前くんおかしくない!?」
「おかしくあらへんわ」 「おかしいってば!」
「うっさいねん。さっさとパフェ食えや」
いつの間にか目の前にあったパフェをわたしに差し出した財前くん。
絶対おかしい、なんて言ってたら「はよ食え」と頭を本気でたたかれたので
わたしは考えることをやめてパフェを食べ始めた。
「うわああ!これおいしい!財前くん、おいしいよこれ!」
「せやな」 「ありがとう!すっごく嬉しい!幸せ!」
財前くんも食べる?って言おうと財前くんに顔を向けたら、
彼はいつもテニス部の人たちといるときに見せるような、優しいような楽しいような
そんな顔をしていた。
ああ、これがわたしが財前くんを好きになった理由のひとつ。
付き合う前にわたしに一度だけその表情を見せてくれたから。
だから、こんな無愛想な人をいつまでも好きでいられるんだ。

(これではたまに見せる寂しそうな顔をしなくなるやろか)
リクエストありがとうございました!!すっごく遅れて申し訳ございません!
実は、財前のリクエスト夢をアップしていたつもりでいまして;本当にお待たせいたしました。(10.8.7)
|